Aug.25.西日本F4選手権シリーズ第5戦 鈴鹿
●F4は新時代へ
2010年、JMIAはF4カテゴリーに対してUOVAカーボンモノコックの供給を開始し、2月末、東京R&Dが最初のUOVAカーボンモノコックF4であるRD10Wを完成させました。
今年から、エンジンのレギュレーションも変わって、新たに排気量は2リットルとなり、それに併せて戸田レーシングはホンダK20をベースとして、トムスはトヨタ3ZRをベースとして、2リットルF4エンジンを開発しました。
東京R&Dは、RD10Wの1号車に戸田レーシング製K20エンジンを組み合わせ、昨年のスーパーFJチャンピオンである西本直樹のドライブにより、デビューレースとなった西日本F4シリーズではいきなりポールポジションを獲得し、その実力の片鱗を披露しました。
西本直樹のドライブによるRD10W/戸田K20は、早くも西日本F4シリーズ第2戦で初優勝を達成すると続く第3戦でも優勝しました。
2レース共ポールtoフィニッシュであったことを見ても、圧倒的なポテンシャルを実現したことが判ると思います。
4月に入ると、ムーンクラフトが2機種目となるUAVAカーボンモノコックF4、MC-090を完成させました。MC-090の1号車はトムス製3ZRエンジンを搭載してメッカへデリバリーされました。
その後、6月から7月にかけて東京R&Dは、次々とRD10Wの2号車、3号車、4号車を完成させて、F4チームへデリバリーされました。
6月にはムーンクラフトも、戸田レーシング製K20エンジンを組み合わせたMC-090の2号車を完成させ、Team NAOKIへデリバリーしました。Team NAOKIでMC-090/戸田K20を操ることとなったのは、西日本F4シリーズ開幕戦で西本直樹がドライブするRD10Wのデビューウインを阻止した吉田広樹です。
吉田広樹が乗り組んだMC-090/戸田K20は、西日本F4シリーズ第4戦鈴鹿でデビューして、雨となった決勝レースで、西本直樹のRD10Wを破って、デビューウインを達成しました。
この頃から、F4はがぜん面白い状況となってきました。
ここしばらく、まったく新車が販売された形跡のないF4にかかわらず、5月頃からUOVAカーボンモノコックを使ったF4を開発中のコンストラクターに対して、彼方此方から問い合わせの電話が寄せられるようになりました。
1年目には、せいぜい数台しか売れないと考えていたJMIAの予想は大きく外れ、丈夫で安価なUOVAカーボンモノコックの生産が間に合わない状況が続いています。
3つ目のUOVAカーボンモノコックF4は、当初、JIMゲイナーが開発を行うことになっていたため、JIMゲイナーの田中オーナーと旧知の仲の童夢の林みのる代表がカウルのデザインと製作を引き受けていましたが、スーパーGTをオリジナルマシンで闘うJIMゲイナーは非常に忙しく、なかなか着手に至らなかったので優良な外注先を探していたところ、かねてよりUOVAカーボンモノコックF4の開発を希望していたZAP SPEEDとの接点が生じ、話を進めるうちに、全面的にZAP SPEEDがJIMゲイナーの計画を引き継ぐこととなりました。
筑波サーキットを拠点とするZAP SPEEDは、現在、様々なカテゴリーで38台のレーシングカーを走らせる巨大なレーシングチームです。
ZAP SPEEDは、林みのるデザインのカウルが架装されたF4マシンをZAP F108と名付けて製造/販売を開始することとなり、久しぶりに新たなレーシングカー・コンストラクターが誕生することとなりました。
ZAP SPEEDは、F108の開発ドライバーとして土屋祐輔を採用しました。土屋祐輔は2008年の東日本F4チャンピオンで、その実力には高い評価を得ていましたが、もともと、昼夜のアルバイトで稼いだお金をレースにつぎ込んでいたものの、資金不足に陥り、2009年からは活動の休止を余儀なくされていたところに白羽の矢が立ったというところです。
8月12日、もてぎで開発テストを実施した際、その前に、カウルの架装作業のついでにブレーキシステムの交換を行っていた童夢のメカニックによるブレーキの配管ミスによって、F108はもてぎの3コーナーをノーブレーキで飛び出しクラッシュしてしまいました(JMIAのホームページ参照)。
現在、F4のノーズの耐クラッシュ構造はレギュレーションによりアルミニウム製であることが決められていますが、既にJMIAのホームページで公表しましたように、アルミニウム製の耐クラッシュ構造は全く機能しなかったにも関わらず、丈夫なUOVAカーボンモノコックによって土屋祐輔は大事に至らなかった事により、UOVAカーボンモノコックの丈夫さが注目されたようで、UOVAカーボンモノコックF4を完成させている3つのコンストラクターには、よりいっそうUOVAカーボンモノコックF4の注文が寄せられるようになりました。
明らかにF4は新しい時代を迎えたようです。
●UOVAカーボンモノコックF4が1→2→3フィニッシュ
8月21-22日に鈴鹿サーキットで開催された「西日本F4選手権シリーズ第5戦」に、新しいレギュレーションに従った2リットルエンジンが2種類、そしてUOVAカーボンモノコックを使ったニューマシンが3車種も登場したことによって、寂れていたF4カテゴリーが一気に華やかさを増し、アルミニウムモノコックのニューマシンを開発するコンストラクターや、アルミニウムモノコックの上にカーボンファイバーの補強パネルを組み合わせたマシンを開発するレーシングチームも現れました。
またF4は、日本では珍しい全く自動車メーカーの支援を受けないカテゴリーでありながら、この第5戦には、現在の他のフォーミュラカーレースでは考えられない20台のエントリーを集めました。
内5台が、UOVAカーボンモノコックを使ったマシンです。東京R&Dワークスが1台、東京R&DのRD10Wを導入したB-MAXが2カーエントリー、Team NaokiがMC-090、そしてTeam LiaisonがZAP F108をデビューさせました。
20台のF4は木曜日から走り始めました。既に熟成が進んだ東京R&Dが順調にテストを進めたのに対して、デビュー1ヶ月のTeam NaokiとムーンクラフトはMC-090に様々なセッティングを試みているようです。
デビューレースを迎えたZAPスピードは、踏み込んだセッティングを行うと言うより、さまざまな初期トラブルを解消することに多くの時間を費やすこととなっていたようです。しかし、心配されたドライバーの土屋祐輔は先週のクラッシュの影響も無く、元気にF108を走らせました。
このように、それぞれの状況は違いますが、土曜日に予選が行われる頃になると、3つのコンストラクターとレーシングチームのエンジニアはセッティングをまとめてきました。
東京R&DのRD10Wを操る西本直樹、ムーンクラフトMC-090を操る吉田広樹、ZAP F108を操る土屋祐輔の3人は、共に素晴らしいポテンシャルを持つドライバーです。
予選が始まると、真っ先にMC-090の吉田広樹がタイムアタックを行い、2分6秒940のトップタイムを記録しました。
続いてF108の土屋祐輔がタイムアタックを開始しましたが、なかなかクリアラップが取れず、予定より1周多い6周を走って、やっと吉田広樹を破る2分6秒761をマークしました。
コースが空くのを待ってコースインしたRD10Wの西本直樹は、快走して2分6秒588を叩き出してポールポジションを獲得しました。
予想通りUOVAカーボンモノコックF4がスターティンググリッドのトップ3を独占してスタートすることとなりました。
この3台のみは2分7秒を切るラップタイムを記録しましたが、ご覧のようにラップタイムの差はほんの僅かです。しかし、今回の鈴鹿のレースの場合、3台のマシンのキャラクターは大きく違ったようです。
今回、鈴鹿にやってきた5台のUOVAカーボンモノコックF4は、総てが戸田レーシング製ホンダK20を搭載しています。つまりエンジンのキャラクターの違いは無い訳ですが、非公式に最高速度を計測してみると、ZAP F108が1等賞、東京R&DのRD10Wが2等賞、ムーンクラフトMC-090は3等賞となりました。
ところが、3台はほとんど同じラップタイムを記録していますから、少なくとも今回、3台はまったく違うキャラクターだったようです。
ZAP F108の特徴が速いストレートスピード、ムーンクラフトMC-090の特徴が速いコーナーリングスピード、東京R&DのRD10Wは、その中間の性格であったようです。
ほとんどの場合追い越しはストレートエンドのブレーキングで行われます。そのため、どんなにラップタイムが速くても、ストレートスピードの遅いマシンがストレートスピードの速いマシンを抜くのは容易ではありません。鈴鹿の場合、ホームストレート先の1コーナーへの進入と長いバックストレート先の130Rの進入で最も多く追い越しは行われます。決勝レースでの追い抜きを考慮した場合、最高速度が速いZAP F108が有利であると考えられました。
3台の内、どのマシンがマッチしているか注目されました。
そして日曜日、34度の猛暑の中、決勝レースを迎えました。
スターティングシグナルが青になると、F108を操る土屋祐輔が自ら「スタートのプロです」と宣言するように、絶妙なスタートを決めました。
ポールポジションのRD10Wの西本直樹は少々出遅れてしまったようで、2列目3番グリッドからスタートしたMC-090の吉田広樹にも抜かれ3番手で1コーナーを抜けていきました。
速いストレートスピードを活かしたF108の土屋祐輔が独走状態を築きつつある頃、スタートで2番手にジャンプアップしたMC-090の吉田広樹は、直ぐにRD10Wの西本直樹に抜かれてしまいます。
トップを快走するF108の土屋祐輔をRD10Wの西本直樹は追いますが、F108の土屋祐輔は、ファストストラップタイムを記録しながら、RD10Wの西本直樹の追従を許しません。そして、土屋祐輔が操るZAP F108が独走でデビューウインを飾りました。
2位にRD10Wの西本直樹、3位にMC-090の吉田広樹が続いて、UOVAカーボンモノコックF4が、表彰台を独占しました。
近々ムーンクラフトは3号車と4号車をデリバリーする予定です。シーズン終盤には、さらに数台のUOVAカーボンモノコックF4が登場します。しばらくの間忘れられたカテゴリーだったF4は、今年非常に興味深いカテゴリーとして注目されつつあります。
鈴木 英紀 著
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