Dec.21 2010
圧倒的な速さでムーンクラフトMC-090が
2010年もてぎF4日本一決定戦を制する
●トヨタ・テクノクラフトの登場
既に東西のF4シリーズと国土交通省杯F4コンストラクターズ日本一決定戦は終了しましたが、毎年恒例となっているF4の日本一決定戦が、昨日ツインリンクもてぎで行われました。
JMIA勢では、西日本シリーズでチャンピオンを獲得して、1ヶ月前のコンストラクターズ日本一決定戦でも優勝した西本直樹の東京R&D RD10W/戸田K20、8月に登場して、東西の後半のシリーズで4勝を上げ、国土交通省杯を獲得したZAP F108/戸田K20の土屋祐輔、さらに、西本直樹と最後までタイトル争いを繰り広げた吉田広樹のムーンクラフトMC-090/戸田K20を筆頭にして、8台のUOVAカーボンファイバーコンポジットF4が登場しました。
内訳は、ZAP F108が3台、東京R&D RD10Wが4台、そしてムーンクラフトMC-090が1台です。通常DRAGONがドライブしているNo.77 B-MAXの東京R&D RD10Wは、F4の強豪である花岡翔太が乗り組みます。既に2011年に向けてニューマシンをデビューさせたチームもあります。東日本シリーズの常連TAIROKUガレージ茶畑は、真新しいZAP F108/戸田K20と共にもてぎにやって来ました。
また、TRDで知られるトヨタ・テクノクラフトは、RD10Wをベースとした車体にトヨタ3ZRを組み合わせたマシンをツインリンクもてぎに持ち込んできました。
トヨタ・テクノクラフトは、社員教育の一環としてF4の開発とメンテナンスに取り組んでいるようで、ツインリンクもてぎへ持ち込まれたマシンは、その最初のステップであるようです。自由に様々な工夫を盛り込むことが出来るF4ならではの選択と言えるでしょう。
●ムーンクラフトMC-090の衝撃
2010年の東西のF4シリーズは、西本直樹がドライブする東京R&D RD10W/戸田K20、吉田広樹が操ったムーンクラフトMC-090/戸田K20、土屋祐輔が乗り組んだZAP F108/戸田K20の3台のJMIA・UOVAカーボンファイバーコンポジットモノコックF4が席巻しました。
8月に登場したZAP F108は、土屋祐輔のドライブによって、西と東の後半の4つのレースで優勝しました。ZAPは筑波サーキットを拠点としていますから、ツインリンクもてぎでも頻繁にテストを行っています。また、土屋祐輔自身茨城県の出身で、慣れたコースです。11月始めに行われた東日本シリーズ最終戦の際も、ライバル達を寄せ付けない圧倒的な速さで優勝しています。
そのため、今回のレースは土屋祐輔を中心として展開されると予想されていました。しかし、土曜日になると少々様子が異なることが明らかになりました。
吉田広樹の操るムーンクラフトMC-090が次第に速さを増して、絶えずトップタイムを記録するようになってきたからです。
吉田広樹の操るムーンクラフトMC-090は、ツインリンクもてぎへ入った後、様々なトラブルに苦しんでいました。12月のもてぎですから、朝晩の気温は氷点下まで下がります。そのため、電圧が下がってコース上にストップしたこともありました。ところが、これらの細かいトラブルが解消すると、圧倒的な速さを披露するようになりました。
どれくらい圧倒的かと言うと、土屋祐輔のZAP F108や西本直樹の東京R&D RD10Wをほとんど1秒引き離すほどですから、驚異的な速さと言えるでしょう。
土屋祐輔のZAP F108や西本直樹の東京R&D RD10Wが遅い訳ではありません。土屋祐輔や西本直樹も、コースレコードに迫るラップタイムを記録しています。吉田広樹のムーンクラフトMC-090唯一台だけが異次元のラップタイムを記録し続けました。
●2番手を1.347秒も引き離してムーンクラフトMC-090がポールポジションを獲得
今回のレースは、20分間の予選、8周で行われるセミファイナル、そして15周のファイナルレースの三段階で勝敗が決定します。
朝9時15分5℃の気温の中、F4の予選が開始されました。今回のレースはセミファイナルの8周とファイナルレースの15周まで、1セットのタイヤしか使うことが出来ません。そのため、予選であまり多く周回してしまうと、ファイナルレースでタイヤが辛くなってしまうのですが、低い気温によってタイヤが暖まらないため、多くのマシンは予定より多く周回を走ることとなりました。
セッション開始早々オイル処理のため13分間中断されたことも、タイヤの暖まりが悪い理由となったかもしれません。セッション再開後、吉田広樹のムーンクラフトMC-090は1分52秒218という驚異的なタイムを記録しました。西本直樹、土屋祐輔、花岡翔太が追いかけますが、西本直樹の東京R&D RD10Wが1分53秒565、土屋祐輔のZAP F108が1分53秒918、花岡翔太のB-MAX 東京R&D RD10Wが1分53秒986を記録するのが精一杯です。
その結果、2番手に1.347秒の大差をつける驚異的なラップタイムで吉田広樹のムーンクラフトMC-090がポールポジションを獲得しました。
グリッド予選結果
1 No.70 吉田広樹 ムーンクラフトMC090 1分52秒218
2 No.10 西本直樹 東京R&D RD10W 1分53秒565
3 No.14 土屋祐輔 ZAP F108 1分53秒918
4 No.77 花岡翔太 東京R&D RD10W 1分53秒986
5 No.12 松本武士 MYST KK-ZS 1分54秒376
6 No.99 西村和則 WEST006 1分54秒692
●ムーンクラフト独走、スポット参戦の花岡翔太が4位でファイナル進出
セミファイナルはたった8周で行われますが、抜き所が少ないもてぎとあってファイナルレースでのスターティンググリッドを少しでも上位とするため熾烈な争いを繰り広げられました。
スタートが切られると、ポールポジションの吉田広樹のムーンクラフトMC-090がトップのまま1コーナーへ進入しました。その後方では、2列目3番グリッドからスタートした土屋祐輔のZAP F108が素晴らしいスタートを決めて、2番グリッドの西本直樹の東京R&D RD10Wを抜いて2番手で1コーナーへ進入しました。
期待のトヨタ・テクノクラフトでしたが、スタート後の1コーナーの混乱の中、後方から、他のマシンに乗り上げられるアクシデントに見舞われて1コーナーでストップしてしまいました。
乗り上げたマシンが、トヨタ・テクノクラフトのドライバーの栗原正之のヘルメットをかすめたと言いますから、UOVAカーボンファイバーコンポジットモノコックでなかったら、大きなアクシデントとなっていたかもしれません。
先頭を走る吉田広樹のムーンクラフトMC-090がどんどんリードを広げて、その後方では2番手の土屋祐輔のZAP F108と西本直樹の東京R&D RD10Wのバトルが繰り広げられていましたが、後半、西本直樹が土屋祐輔を抜いて、0.4秒差で2位と3位でフィニッシュしました。
続く4位に花岡翔太のB-MAX 東京R&D RD10Wが入りセミファイナルは終了しました。
セミファイナル結果
1 No.70 吉田広樹 ムーンクラフトMC090 8Laps
2 No.10 西本直樹 東京R&D RD10W 8Laps
3 No.14 土屋祐輔 ZAP F108 8Laps
4 No.77 花岡翔太 東京R&D RD10W 8Laps
5 No.12 松本武士 MYST KK-ZS 8Laps
6 No.8 服部晃輔 WEST006 8Laps
●圧倒的な速さで吉田広樹のムーンクラフトMC-090が2010年を締めくくる
例えラップタイムが1.3秒も違っていても諦める訳には行きませんから、ファイナルレースのスタートでフロントロー・イン側の西本直樹は勝負に出ました。絶妙なタミングで素晴らしいスタートを決めた西本直樹の東京R&D RD10Wは1コーナーに向けて突進しました。ポールポジションの吉田広樹も好スタートを決めましたが、後ろでは、3列目スタートの松本武士が2列目スタートの土屋祐輔の横に並ぼうとしており、2列目スタートの花岡翔太も吉田広樹に襲いかかろうとしています。吉田広樹は、彼らを牽制するため、大きくイン側へ進路を変えますが、西本直樹の東京R&D RD10Wに先を越されました。吉田広樹が2番手、3番手に花岡翔太、4番手に土屋祐輔、5番手に松本武士の順で1コーナーへ進入し、面白い展開となってきました。
後方では、セミファイナルでマシンを壊したトヨタ・テクノクラフトのマシンが修理されて、元気にスタートして行きました。
先頭に立った西本直樹ですが、圧倒的なムーンクラフトMC-090の速さには抵抗出来ないようです。1周目が終了する前に吉田広樹のムーンクラフトMC-090がトップに返り咲き、西本直樹は2位でホームストレートに戻ってきました。
花岡翔太のB-MAX 東京R&D RD10W、土屋祐輔のZAP F108、松本武士のMYST KK-ZSの3台による3番手争いは熾烈です。土屋祐輔のZAP F108はリアタイヤのトラクションがかからないようで、一旦松本武士に抜かれてしまいますが、もてぎを得意とする土屋祐輔は松本武士を抜き返して、花岡翔太のB-MAX 東京R&D RD10Wを追います。花岡翔太のB-MAX 東京R&D RD10Wと土屋祐輔のZAP F108のデッドヒートは土屋祐輔に軍配が上がりましたが、土屋祐輔のZAP F108のリアタイヤは相当に辛いようで、その後松本武士に抜かれてしまいます。
吉田広樹のムーンクラフトMC-090はトップを独走しています。西本直樹の東京R&D RD10Wが2位を走りますが、たった10周で10秒も差は開きました。
吉田広樹のムーンクラフトが12周目に入った時、V字コーナーでアクシデントが発生してコース上にマシンがストップしたために赤旗が提示されレースは中断されることとなりました。
赤旗が提示された時、既に上位のマシンは13周目に入っていましたが、アクシデントが発生したのが12周目であったことから、11周終了時点の順位でレースは成立することとなり、圧倒的な速さを見せつけた吉田広樹のムーンクラフトMC-090が優勝、2位に西本直樹の東京R&D RD10W、3位に松本武士の MYST KK-ZS、4位に土屋祐輔のZAP F108という順位で2010年最後のレースを終了しました。
ファイナルレース結果
1 No.70 吉田広樹 ムーンクラフトMC090 11Laps
2 No.10 西本直樹 東京R&D RD10W 11Laps
3 No.12 松本武士 MYST KK-ZS 11Laps
4 No.14 土屋祐輔 ZAP F108 11Laps
5 No.77 花岡翔太 東京R&D RD10W 11Laps
6 No.8 服部晃輔 WEST006 11Laps
●吉田広樹のムーンクラフトMC-090の速さの秘密
2010年JMIA会員企業のいくつかのコンストラクターが、JMIA・UOVAカーボンファイバーコンポジットモノコックを使ったF4の開発に取りかかりました。ムーンクラフトも、それらのチャレンジャーの一つです。しかし、ムーンクラフトがF4の開発をスタートした時、既に東京R&DがRD10Wの開発に進んでいました。同じ様なパーツを別々に開発しても、コストの無駄使いと判断したようで、ムーンクラフトは空力に特化してF4の開発に取り組みました。
同じモノコックと基本的に同じサスペンションを使うのであれば、他のマシンを買ったレーシングチームによって、後にボディカウルだけの注文が来ることも期待した選択だったでしょう。
ムーンクラフトは4月にMC-090の1号車を完成させ、5月から7月にかけて、2号車以降MC-090も次々とチームにデリバリーされました。
MC-090は非常に凝った空力デザインを持ち、ノーズ床下にもキチンとアンダーフロアが設けられています。しかし、それだけでこのタイム差は説明しきれませんから、各位それぞれが原因を探っているところですが、原因があるとすれば、何らかの理由で性能差のあるタイヤが混在したのではないかと疑われているくらい、吉田広樹の操るMC-090を圧倒的な速さを見せつけていました。
現状、MC-090の速さの秘密が空力の優秀性によるものかタイヤの性能差によるものかは知る由はありませんが、来シーズンのMC-090がその答えを出してくれるでしょう。楽しみです。
鈴木 英紀 著
>>> backnumber