●強すぎる東京R&Dへの挑戦を決心したZAPスピード 26年間続いたFJ1600は、2007年スーパーFJとしてリニューアルされました。現在のスーパーFJは、JMIA加盟企業である東京R&Dが開発したRD10Vが圧倒的な強さを発揮して、日本中のサーキットで行われているスーパーFJシリーズを席捲しています。 現在スーパーFJで成功を望むのであれば、取りあえず東京R&DからRD10Vを購入するのが条件であるとさえ考えられる状況となっています。
このワンメーク状況は、日本のレース産業全体を考えると決して好ましくはありません。競争があってこそ正常な進化が可能となりますから、強力な東京R&Dに闘いを挑む挑戦者が求められていました。しかし、あまりにも東京R&Dが強すぎるため、低コストが求められるスーパーFJへ新たに参入するコンストラクターは、これまで現れませんでした。
そんな時、ついに強すぎる東京R&Dへのチャレンジャーが現れました。30台以上のレーシングカーのメンテナンスを行っているZAPスピードは、2010年にF4のZAP F108を発売してコンストラクターとしてデビューしました。童夢が基本設計を担当したF108は素晴らしいポテンシャルを発揮して、昨年、平川亮がF4西日本シリーズのチャンピオンを獲得する原動力となりました。ZAPスピードは、現在日本において、もっとも元気なコンストラクターの一つと言えるでしょう。その元気なZAPスピードが、スーパーFJへコンストラクターとして登場することを決心しました。 ●高性能と低コストを両立する方法 JMIA・UOVAカーボンモノコックを使ったF108は、JMIA関連企業の密接な関わりによって誕生したレーシングカーです。同じ様なパーツを作るのに、各コンストラクターが個別に開発費や型代を負担するのはコストの無駄使いとの判断から、先行して開発されていた東京R&DのRD10Wのパーツを、多数流用しています。 JMIAの強みを活かして誕生したマシンの好例です。 ZAPスピードの新しいスーパーFJ F109の開発も童夢が担当していますが、F4同様、JMIAの各企業が開発する優秀なパーツを積極的に採用してコストを抑えるというアイデンティティは貫かれています。
東京R&DのRD10V最大の特徴は、エンジンとギアボックスを結ぶベルハウジングを鋳物製としたことです。RD10V以前のスーパーFJのベルハウジングは、鉄板を組み合わせて溶接しただけのベルハウジングが使われていました。ベルハウジングを鋳物製とすることによって、RD10Vは大幅にシャシー剛性を向上させることに成功しました。 ZAPスピードは、この鋳物製のベルハウジング、そしてアップライト等RD10Vの優秀なパーツを数多く採用しています。 ●あらゆる面で従来のスペースフレームと一線を画す画期的な構造のフレーム フレームは完全に新しく開発されました。従来のスーパーFJは、細い鋼管を溶接によって組み合わせたスペースフレーム構造を基本として、側面衝突の際の安全性を確保するためフレーム側面に鉄板を張っています。 F109のスペースフレームは、高剛性と安全性と耐久性を高次元で実現するため、従来のスーパーFJとはまったく違うフレームが開発されています。
廉価版のレーシングカーのフレームは、細いパイプを溶接によって組み立てるスペースフレームが一般的ですが、細いパイプを複雑なジグによって固定して、溶接によって組み立てる製法には優秀な職人の技術が必要不可欠です。 しかも、耐久性や修復の面でも問題があります。 また、従来の鋼管スペースフレームのデザインは、100年もの歴史の中で完成の域に達していますから、従前の手法では同等の性能のものしか作れません。
ロードカーの世界でも、元々鋼管を溶接によって組み立てたスペースフレームを使っていましたが、コストを削減するため様々なアイデアが編み出されました。 一つ一つのパイプを太く大きくしたラダーフレーム、そして、ボディそのものによって剛性を受け持たせるモノコックフレームが登場して今日に至っています。
そこで童夢では、長年に亘るバイクの量産設計の経験を活かし、角パイプを自在に曲げることを前提とした新たなるフレーム構造の開発に着手しました。 現時点ではまだ、太い角パイプを安価に自在に曲げる技術は研究段階ですが、童夢では、F4のUOVAカーボンモノコック同様、レギュレーションでCFRPの採用が禁止されているスーパーFJ等の廉価版レーシングカーにとって、より高性能で安全性の高いスペースフレームが必要と考え、新しいスペースフレームの形を考えていたようです。 ●走り出したZAP F109 ZAP F109の特徴は画期的なフレームだけではありません。 スーパーFJは、側面衝突の際の安全性を高めるため、ルールによって、コクピット両側のラジエターの外側に鉄パイプ製の耐クラッシュ構造を設けなければなりません。ほとんどの場合、このルールによって決められている耐クラッシュ構造がラジエターのマウントを兼ねています。鉄パイプ製の耐クラッシュ構造は非常に大きく、その内側に取り付けられるラジエターが圧倒的に小さいため、サイドポンツーン周辺をどのようにデザインするかが、スーパーFJの空力性能を左右するポイントとなっているようです。
童夢は、前例の無いサイドポンツーンをデザインしました。何とフレーム本体からサイドポンツーンを離してレイアウトしてしまいました。 高い安全性を維持しながら、前面投影面積を削減出来るだけでなく、前後のウイングの能力も引き出せる、良いことずくめのデザインであるようです。
昨年中に走らせることを目標として、一部に暫定的なパーツを使ってF109の1号車の製作が進められました。実際、年末にF109は完成していました。しかし、昨年末の雪によって、シェイクダウンテストは年明けとなりました。 先週、鈴鹿サーキットにおいてF109はシェイクダウンテストが行われました。テストドライバーを務めたのは、2009年の鈴鹿スーパーFJチャンピオン、そして2010年の西日本F4チャンピオンの西本直樹です。鈴鹿に持ち込まれたF109の1号車は、まだ、一部に暫定的なパーツを使って組み立てられたプロトタイプのようなものですから、ラップタイムを比較するような状態ではありませんが、偶然一緒に走ったスーパーFJと比べると、非常に早いストレートスピードを披露しました。 ●いつ販売されるか? このように、ZAP F109は画期的なフレーム構造を採用しているために、このフレームの量産技術の構築が必要不可欠です。童夢では、この曲げ加工された太い角パイプを活用したフレーム構造を、今後低価格レーシングカー用として広く活用できると考えているため継続的な開発を決定していますし、「開発は容易ではないが、難しければ難しいほど真似され難いという事にもなるから、挑戦のし甲斐がある」と表明しています。
JMIAが、F4やFJのプロジェクトを推進している最大の理由は、日本では絶滅しつつあるレーシングカー・コンストラクターの後継者の育成にあります。 F4に関してはZAPスピードを支援してF4のコンストラクターとしてのスタートを後押ししました。今回のスーパーFJプロジェクトにおいても、以前からコンストラクターを目指してオリジナルな車両を手作りしていたフヂイエンヂニアリングに白羽の矢を立てて、フヂイエンヂニアリングを開発の初期段階から参画させるとともに、フレームの製造段階で実作業を担当するなど、彼らは着々と実力を蓄えているところです。 F109は、ZAPを中心として、フヂイエンヂニアリングを初めとするJMIA加盟企業が協力することによって、効率良く製作される予定です。
現在レース関係者の間で、ZAP F109がいくらで発売されるか?注目されていますが、ZAPスピードは、2012年は開発の年として少数を製作しつつ、性能向上とサービスを含めた万全のサポート体制を確立して、その後、本格的な販売を開始する計画であるようです。 現在スーパーFJの購入を検討されているレーシングチームの方々にとっては、速さが保証されているRD10Vをオーダーするのか?ZAPスピードがF109の価格を発表するまで待つのか?判断が分かれるところでしょう。 いずれにしろ、今年のスーパーFJは面白くなりそうです。 ZAP F109諸元 全長/全幅/全高:3840 / 1687 / 1005mm、ホイールベース:2350mm、最低地上高:50mm トレッド 前:1474mm 後:1463mm、車両重量:425kg ブレーキ:4PODアルミキャリパー、前後バランス手動調整式 サスペンション形式:プッシュロッド式ダブルウィッシュボーン ダンパー:戸田レーシング製 Fightex(減衰力調整式) エンジン:HONDA 1500cc VTEC L15A トランスミッション:戸田レーシング製 5速レーシングミッション メーター:パーカル or AIM ※注:開発中のため、車両仕様は変更される可能性があります。