Jun.6.2008 FCJ NEXT STAGE
従来より、日本の自動車レースは、そのほとんどの資金元を自動車メーカーに依存し、ドライバーの戦いや 育成を主目的として展開されてきました。また、これらの自動車レースに必要な機材はほとんどが輸入品とな っています。そのために、わが国には、その自動車レースに必要なレーシングカーやレース用部品を開発制作 するような自動車レース産業が発展せず、技術レベルの向上も妨げられてきました。しかし本来、我が国のこれらの レーシングカーやレース用部品などの開発技術力が欧米に劣るはずは無く、単に、日本の自動車レース界の外国製品 志向に置き去りにされてきたに過ぎません。
このままでは、いつまで経っても全ての技術要素を海外に依存したままの変則的な形の自動車レースにしか 成り得ませんし、自動車レース産業の発展も望めません。
英国にはモータースポーツ工業会(MIA) があり、年商7200 億円、1 兆2000 億円の経済効果があると発表して いますが、その中の1200 億円以上が日本への売り上げと言われています。どうしても越えられないような技術的な 壁でもあるならともかく、技術立国日本の英知を結集すれば、現状でも、世界で最も優れたレーシングカーやレース 用部品を開発製造することは至って簡単なことです。ただし、生産販売経験を積むための少しのチャンスを与えられ ればですが。
もし、ドライバーを育てる事だけを目的とした現状の形のまま日本の自動車レースが発展するとすれば、 それはすなわち、どんどん輸入量が増大し資金流出が続き海外の自動車レース産業の強化振興や技術力の 向上に拍車をかけるということであり、発展すればするほど、海外と日本の自動車レース産業や開発技術力の格差を ますます拡大するだけと言う無為無策な愚行でしかない事は理解いただけると思います。
一方、先進の自動車開発技術の戦いである自動車レースにおいては、カーボン・コンポジット開発技術と 空力開発が技術の中核となっており、これらの先進技術は、そのまま、現在の自動車が抱える環境問題に 直結した技術であり、飛行機がそうであるように、これからの自動車の軽量化にはカーボン・コンポジット の開発技術が欠かせませんし、高速道路での数パーセントオーダーの燃費改善には空力開発技術が欠かせません
このように、重要度において比べようも無いこれらの2つの事柄が、一つはことさら過大に、一つはまるでないが しろにされてきた現実が何とも不思議な日本の自動車レースですが、日本の自動車レースは、何が何でもドライバーを 育成することだけが唯一の目的ですから、その為には、ドライバーの力量が公正に比較しやすいとか、技術面での 競争はコストアップにつながるとか、外国の実績のある車体を輸入するのが賢明とか、外国のドライバーと同等の 環境で育てたいとか、まあ、表だってのもっともらしい理由はいろいろ言われていますが、根底に流れるのは、 ドライバーのことしか考えられないレース界の人たちの狭量な頭の構造がそれ以上の想像を妨げている事が最大の 原因でしょう。 ちょっとレースをかじった人ならば、激戦区のカテゴリーで勝ちつづける事がいかに難しいことであるかを熟知して いますし、常に流動的なドライバーの技量に頼ったり、常に進化を続ける速いマシンが頼りだったりするだけでは、 短期的には勝つことが出来ても長期に亘り優秀なチームとしてレース界に君臨することは不可能です。レースを勝ち つづけるにはチームとしての総合力が問われますし、それ以前に、そのような優秀なチームの存在を必然とする土壌が 必要です。成熟した基幹産業がレースを支え先進の技術がレースをコントロールする環境からこそ優秀なドライバーが 生まれるのであって、ワンメイクのレーシングカーで技術力を排除してドライバーの育成だけに特化するという変則的な 手法は、自動車教習所と思想的には何ら変わるところはありません。
こう言うと、逆にドライバーをないがしろにしていると反論する方が少なくありませんが、何もラジコンで走らせようと 言っている訳ではなく、私たちが主張しているのは日本の自動車レースの健全な発展振興であり、発展振興するという事は、 すなわち、ドライバーの需要が高まる訳ですから、当然、ステイタスは向上しギャラも上がることになるでしょう。
ドライバーに感謝されこそすれ敵視される筋合いではないと思うのですが、まあ、いずれ理解されるであろうことを信じて、 私たちは日本の自動車レースの改革にまい進したいと思っています。
私たち、小規模と言えども日本の自動車レース産業の一翼を担うものとしては、これ以上、日本の自動車レースの危急存亡の 瀬戸際だと認識しつつも看過し続ける訳にはいきませんので、この際、日本の自動車レース産業の工業力技術力をパワーソース として、自動車レース産業界の発展振興や技術力の向上を目指しつつ、その結果として、日本の自動車レースの根本からの改革と 国際競争力の強化を実現させることを目的に、従前からの、日本コンストラクター・ユニオンと日本レーシングエンジン・ユニオンを 母体として、日本自動車レース工業会(JMIA)を設立することにしました。
NPO法人としての正式な設立は2008年7月からですが、そのJMIAの最初の事業として、日本の自動車レース事情を最も如実に 反映しているFCJマシンの国産化を提案すべきだと意見が一致し、この企画書を作成しました(JMIA設立直前に日本コンストラクター・ ユニオンとして企画書を作成していましたが、その直後にJMIAが設立されましたので修正しています。JRPに対する第一回の プレゼンテーションには間に合わなかったので、通知の上で日本コンストラクター・ユニオン版を使いました)。
これは、このような希望に満ちた未来への第一歩となる提案です。少し視野を広げつつ少し足もとから目線を上げてもらえば、 我々の言わんとすることが見えてくるはずです。日本のレース界に新しい風が吹き始めています。
日本の技術力
前述したような事情で、日本のレース界に、日本の技術力工業力を正確に査定できる環境がないために、どうしても実績重視と なりがちで、海外の実績のあるところはどんどん成長し、反対に、取り残されたところはどんどん置きざりにされてゆきがちです。 レーシングカーといえども、しょせん工業製品ですから、専門的な目で見れば、何をどうすればどうなるかという見積もりは難しく ありませんし、公正な判断ができれば、一方的に海外に流出するという事もなくなると思うのですが、現状、その公正な判断を 求めることが大変に難しい状況であると言えます。
いままで、あまりチャンスを与えられなかった日本の自動車レース産業がやや経験不足であることは否めませんが、もろに技術力の ぶつかり合いであるF1 やルマンなどと違い、FCJ やFN 等のワンメイク用のシャーシは、極限の性能追求よりは、製品の品質や安定性が 重視される分野であり、その分野では、現状でも、ヨーロッパに比べても勝るとも劣らない能力を有していると思います。
当面、これらのワンメイク・シャーシを中心に開発製造経験を重ねれば、日本人の英知は、日本の技術力を瞬く間に世界のトップランクに押し上げてしまうでしょう。
コスト
童夢がF3 を開発したとき、販売のパートナーとして協力関係にあったLOLA 社と、日本と英国のどちらで生産したほうが安いかを全部品 に関して相見積もりを取りましたが、90% の部品において日本製のほうが安く、平均すれば6% のコスト差があることがわかりました。 これは2003 年のことでしたが、現在は、英国のインフレは拡大しており、そのコスト差はもっと拡大しています。ギアなどの量産体制の 整った部品を後追いで生産体制を整えることは設備投資などの面から簡単ではありませんが、CFRP 製品やサスペンション・パーツなどの 少量生産品に関しては、圧倒的に優位にあると考えています。
アフターケア/サービス
会員企業をご覧になればお解りいただけると思いますが、会員企業の多くが、鈴鹿サーキットやフジ・スピードウェイなどの近隣に点在するために、 会員企業の協力により、手厚いサービス体制が構築可能です。JMIA 製FCJ が実現した暁には、会員企業を集めて、サービス/ メンテナンスの講習を行い、 パーツ類のストックとともに、上質なアフターケアが実施できるように考えています。これだけの、プロフェッショナルな技術と設備を整えた企業が 幅広くネットワークする環境は、自動車レースの世界では珍しいと思いますが、最終的には、アフターケアだけではなく、このような体制を利用して、 通常のメンテナンスや車両の運送なども受託できるような包括的なサービス体制を構築したいと考えています。
NEW FCJシャーシのコンセプト
レーシングカーにおいて、あるレベル以上、つまり、F1 やルマンなどのレースのように真剣勝負モードまで性能を高めると、コストを無視して、 あらゆる点で限界まで性能を追求することになります。
そうなると当然、耐久性や安全性やコストなどのあらゆる面で犠牲が強いられることになりますので、ワンメイク・シャーシでは避けたいところですが、 ステップアップ・カテゴリーとしては、次のF3 とあまりにかけ離れた性能レベルのシャーシでは次につながりません。つまり、F3 ドライブの シミュレーターとしての側面を持つ訳で、ワンメイクだから性能はどうでもいいとは言えないどころか、F3 を知り尽くしたコンストラクターが 開発すべき内容のフォーミュラと言えます。
要するに、コストと性能レベルなどのバランスをどのように考えるかで決まりますが、できる限りF3 に近い性能、特性にしておきたいものです。
しかし一方、十分な経験を持たない新人たちのレースですから、最大限の安全性の確保は必然でしょう。これらの相反する要素を、 どこらあたりで折り合いをつけるかがポイントとなります。
耐久性もはっきりと数字で表せるものでもないので設計上の設定が難しいところですが、厳しく低コストを要求されるコンストラクターにおいては、 現状、大きくコストダウンできるのは、完成してしまったら中身の状況を把握できないモノコックのカーボン使用量を、必要最小限まで減らすことが 常套手段です。
このような廉価版のモノコックの問題点は、往々にして、製品にばらつきが生じやすくなり、あるシャーシは早期に劣化し、あるシャーシはそれほど でもないという事が起こりがちですが、ワンメイク・レースでこうなると、あのシャーシは速い、あのシャーシは遅いということになり、均質な ハードウエアの原則が崩れてレースにならなくなります。つまり、一番ライフの短いシャーシに合わせて使い物にならなくなるので、十分な注意が必要です。
また、ドライバーの育成をメインテーマとするFCJ においては、漫然とサーキットを走らせている以外に、レーシングカーとレーシングドライブの原理を理論と実際か ら会得させる必要があります。若いドライバーにつきつめて質問すると、案外、アンダーステアやオーバーステアの基本的な理論を知らないことが多く驚きますが、こ れでは、実際の走行時に、曲がりきれないけれど、これがアンダーなのか進入が速すぎるのかも解らず、マシンをどのようにセッティングしていいかとか、エンジニア にどう伝えてよいのかもあやふやで、F3 に乗せてから、こんな初歩的なことから学ばせるのに非常に時間を食ってしまうのが現実です。
今すぐには難しいと思いますが、それなりの設備を整えカリキュラムを組んで教材を準備して、実体験と並行して、システマチックな教育を施す体制は必要不可欠だと 考えています。
最大限の安全性の追求
オープン・ホィールのレーシングカーのスタイルは、大昔、フェンダーを外してレースに参加した名残りであり、以前のGC マシンを例に出すまでもなく、カウルをかぶせ たほうが速くなる事でも解るように、速く走るための形ではなく、いわば、レトロチックな形であるといえます。安全性に関しても最優先された形とは言えず、タイヤどう しの接触で舞い上がるフォーミュラは日常茶飯ですし、そのマシンがヘルメットの上から降ってくる危険性は、街中で交通事故に遭うよりははるかに確率が高いでしょう。
フォーミュラの形はファッションであるといえますが、FCJ がフォーミュラを前提としているのなら、その形の中での最大の安全性を追求すべきであると考えます。
まだまだアイデアの段階ですが、従前とは次元の違う安全性の確保を前提としたデザインを提案いたします。
入門用フォーミュラとしての装備
●ワイヤレス・データロガーシステム
ピット前を通過する毎、また、ピットイン時に、外部と結線することなく、瞬時にデータを収集し、各車の状況の分析把握ができます。すでに国産化し運用して おり、生産に問題はありません。
● BOSE ノイズキャンセリング通信装置
従来より関係の深いBOSE 社の協力を仰ぎ、ノイズキャンセリング機能付きの通信装置の搭載が可能です。ドライバーに対するこまやかな指示が可能となります。
●ドライブレコーダー
従来より関係の深いHORIBA の協力を仰ぎ、同社の製品を改良したレース用のドライブレコーダーを開発、搭載可能です。これにより事故などの場合の原因解明が 容易になります。
入門用フォーミュラ・レースのためのカリキュラム(例)
●エアロダイナミクス教室
将来のアッパークラス・レーシングカー・ドライビングに必要不可欠な、レーシングカーのエアロダイナミクスの実際を、開発に使用した50% スケールの FCJ シャーシと50% 風洞を用いて、セッティングによる空力の変化を数値的に理解させるためのカリキュラムが提供可能です。
●サーキット・シミュレーション
専用のシミュレーション・ソフトを用いた、各サーキットのドライビング、セッティング設定などを、条件を変化させながら、細かく分析指導することが 可能です。
開発生産スケジュール
NEW FCJ SPEC.
Wheel Base
2600mm
Front Tread
1450mm
Rear Tread
1400mm
Weight
460kg
G.C Height
280mm
Monocoque
Carbon composites + Aluminum honeycomb
NoseBox
Carbon composites + Aluminum honeycomb
Body Work
CFRP
Under Tray
Stepped bottom + Diffuser
Wing (Fr/Rr)
Carbon composites (adjustable)
Suspension (Fr/Rr)
Double wishbone + Push rod
lnboard damper / Spring
Damper
2way adjustable
Brake
4pod caliper + Ventilated disc
Tyre / Wheel
FCJ tyre + Aluminum cast wheel
Transmission
Hewland JFR 5 speed sequential
Engine
2lt、4 cylinder in line, Dry sump.
(Power: up to 250hp. Torque: 25kg-m)
Safety
Conformity to FIA Latest F-3 standard + α
Side intrusion test
Extractable seats (Optional)
Double belt system
Footbox protection
etc.
Data Logger
New generation Wireless logging system (Optional)
>>> backnumber